新着ニュース

現代アートの美術史~その1~

「そもそも現代アートとは?楽しみ方は?」では、「古典アート」「近代アート」「現代アート」の区別について説明しました。
「現代(コンテンポラリー)アート」は、近代アートの側面を否定、または近代アートの余波から発展した新しい芸術運動です。先述したように「近代アート」では、「上手く描けている」「とても綺麗」「その場面や人物の状況が上手く描写されている」といった、「視覚的な形態」によって作品の良し悪しが判断されていました。しかし1917年に、マルセル・デュシャンが制作した「泉」という作品を祖として、「視覚的な形態」によって作品の良し悪しを判断する「近代アート」の側面を否定し、その作品に込められた「意味(≒コンセプト)」を重視するアートが生まれ、第二次世界大戦後1940年代以降の世界の主流となります。それが「現代アート」です。

ここからは、「現代アート」の美術史に特化して詳細にお話ししていきます。
「現代アート」が盛り上がりをみせるのは1940年頃からです。この時代に何があったのかといえば、第二次世界大戦です。この戦争でヨーロッパは戦地となり、またナチスによるユダヤ迫害がおこりました。それによりフランスなどヨーロッパで活動していたアーティストが、戦火や迫害を逃れるためにアメリカに亡命してしまいます。その結果、それまで世界のアートの中心地だったフランスから、アメリカに中心地が移ってしまいます。そして第二次世界大戦以降、そのアメリカを中心に「現代アート」の様々なジャンルが生まれ、盛隆していくことになります。
この1940年代以降、1980年代にかけて、現代アートの中でも様々なジャンルが生まれていきます。その中でも下記に列挙したジャンルのアートを3節にわけて説明していきます。

1940年代に始まる:「アメリカ抽象主義」、「アンフォルメル」
1950年代に始まる:「カラーフィールド・ペインティング/ハード・エッジ」、「ネオ・ダダ」
1960年代に始まる:「ミニマルアート」、「ポップアート」、「コンセプチュアルアート」、「ランドアート」、「フェミニズム/ジェンダー」、「アルテ・ポーヴェラ/もの派」、「スーパーリアリスム」
1970年代に始まる:「グラフィティアート(ストリートアート)」
1980年代に始まる:「ネオ・ポップ」、「ネオ・エクスプレッショニズム(ニューペインティング)」

この約50年間に生まれた様々なジャンルのアートが、それぞれ「何を目指したアートなのか」を知ると、その作品の「意味(コンセプト)」を理解するのに非常に役立ちます。

第1回目の今回は、「アメリカ抽象主義」「アンフォルメル」から「ミニマルアート」への流れです。

【1940年代「アメリカ抽象主義」「アンフォルメル」】

  第二次世界大戦後1940年代に生まれたジャンル「アメリカ抽象主義」「アンフォルメル」を紹介します。
  「アメリカ抽象主義」「アンフォルメル」は共に抽象画のジャンルです。この後1960年代頃まで世界は「抽象画ブーム」となりま
  す。

 ■「アメリカ抽象主義」 → 一言で「アメリカ発の躍動感ある抽象!」

  第二次世界大戦により世界のアートの中心地がフランスからアメリカへ移ってしました。
  その中でもユダヤ系アーティストが中心となって新たな特徴をもった抽象画を描きました。偶像崇拝を禁止されているユダヤ教
  徒は絵を描く時も基本的に具象画は描きません。なので、必然的に抽象画を描くことになります。
  新たな特徴とは、①巨大なキャンバスを使用し画面全体を抽象的な形象で覆う「オール・オーヴァー」と称される構成と、
  ②水滴のように絵具を落とす技法「ドロッピング」や絵具をしたたらせて線状に描く技法「ポアリング」を駆使して作家のアクシ
  ョン(行為性)を強調する「アクション・ペインティング」が挙げられます。
  ①「オール・オーヴァー」と②「アクション・ペインティング」は、美術史上いままでに無かった発明であり、革新的でした。
  有名なのは、ジャクソン・ポロック、ヴィレム・デ・クーニングです。

 ■「アンフォルメル」 → 一言で「フランス発の抽象!」

  直訳は「非定形」。定まった形がない・・・つまり抽象画。
  「アメリカ抽象主義」と同時代にフランスで生まれた抽象画ジャンルで、アートの中心地を再度フランスに奪還するため、ヨーロ
  ッパのアーティストたちが、世界中に「アンフォルメル」旋風を起こそうと活動しました。
  日本人では今井俊満、堂本尚郎らが同調し、アンフォルメル運動に参加しました。また批評家ミッシェル・タピエは日本のアーテ
  ィスト・グループ「具体美術協会」の活動を日本版アンフォルメルとして海外に紹介し、フランス発の抽象画ブームが世界中に広
  まっていることをアピールしようとしました。
  「アンフォルメル」は、「アメリカ抽象主義」に比べると少し具象的な抽象画です。
  有名なのは、ジャン・フォートリエ、ジャン・デュビュッフェ、ヴォルスなどです。

【1950年代「カラーフィールド・ペインティング」「ハード・エッジ」

  1950年代に生まれたジャンル「カラーフィールド・ペインティング」「ハード・エッジ」を紹介します。
  この2つのジャンルは、先に紹介した「アメリカ抽象主義」が進化したものです。
  「アメリカ抽象主義」はアクション・ペインティングと呼ばれる、とても躍動的で大胆な抽象画で、そこには作家のアクション
  (行為性)が強く表現されています。ジャクソン・ポロックの作品を見れば一目瞭然ですね。
  しかしもっと「純粋な」抽象画を目指す画家たちは、作者による人為的な行為(アクション)の痕跡を拒絶し、抽象画から人の
  行為性を削ぎ落とそうとしました。その結果生まれたのが、「カラーフィールド・ペインティング」、「ハード・エッジ」です。

 ■「カラーフィールド・ペインティング」 → 一言で「少しの色で全体を覆うボヤーっとした抽象!」

  直訳は「色彩の場の絵画」。大きな画面(=「場」)を色数の少ない均一な「色彩」で覆う抽象画。
  アメリカ抽象主義の作者の人為的な行為(アクション)による筆跡的表現を避けるため、おおむね均一な色彩を画面全体に拡げる
  ことで、観者を包み込むような色彩の「場(フィールド)」を現出しようとしました。アメリカ抽象主義から躍動感や作者の感情
  などの不純物を取り除こうとしたのです。
  有名なのは、バーネット・ニューマン、マーク・ロスコです(画像参照)。

 ■「ハード・エッジ」 → 一言で「色のメリハリのあるビシっとした抽象!」

  直訳は「硬い縁」。色面を明確な鋭い線で区切る手法の抽象画。
  アメリカ抽象主義の作者の人為的な行為(アクション)による筆跡的表現を避けるため、明るく明確な形態への指向によって、
  人為的な筆触や色ムラを排除しようとした。これも、アメリカ抽象主義から躍動感や作者の感情などの不純物を取り除いて純粋な
  抽象画を目指したものでした。
  有名なのは、エルズワース・ケリー、ケネス・ノーランドです(画像参照)。

【1960年代「ミニマル・アート」】

  1960年代に生まれたジャンル「ミニマルアート」を紹介します。
  ここまで「アメリカ抽象主義」とその進化版「カラーフィールド・ペインティング」「ハード・エッジ」を紹介しましたが、
  この「ミニマル・アート」はそれがさらに進化したものです。この「ミニマル・アート」をもって抽象主義表現は1つの極点を示し
  終焉を迎えます。
  抽象表現の「純粋さ」を求めた「カラーフィールド・ペインティング」、「ハード・エッジ」から、さらに「究極の純粋さ」を求
  めたので、形や色が最小限まで還元されていきます。

 ■「ミニマルアート」 → 一言で「究極のシンプル!」

  直訳は「最小限のアート」。
  シンプルの究極は、行き着くところ立方体などの単純形態となり、行為の痕跡を徹底的に排除しようとすると工業既製品の使用と
  なり、その結果、単なるシンプルな物体の作品に行き着きます。
  つまり立方体などの単純形態の使用、色彩の抑制、同一要素の反復、幾何学的構造の採用によって、作者の作業痕跡・装飾を徹底
  的に排除したのです。
  有名なのは、ドナルド・ジャッド、ダン・フレイヴィン、フランク・ステラ、リチャード・セラなどです(画像参照)。

このように、第二次世界大戦後アメリカに活動の場を移したアーティストにより、「アメリカ抽象絵画」が生まれ、そこから「カラーフィールド・ペインティング」「ハード・エッジ」が誕生し、究極的に「ミニマル・アート」へと進化し、1940年に始まる「抽象絵画」の流れが1つの極点に達します。
ぱっと見、「誰でも描けそう!」「意味が分からない!」と思われがちな抽象絵画ですが、このような流れがあることを念頭に作品を見ると、当時としては革新的な絵画であったことがわかり、より現代アートを楽しめると思います。