現代アートを所有する魅力と動機
なぜ世界の億万長者たちは、現代アート作品に大金をつぎこむのか?
なぜ欧米人は自宅やオフィスに積極的にアート作品を飾るのか?
現代アートを所有する目的はそれぞれだが、所有には様々な魅力があります。
【アートへの愛情】
アート作品をコレクションする第一の理由はなんといっても、好きな作品を飾り、見て楽しむという純粋なアートへの愛情である。投資を主たる目的とするコレクターであったとしても、やはりアート作品は日々の生活に潤いをもたらすことを実感している。
アートのコレクションといってもお金をかけて大それたことをやる必要は決してない。個人の手持ち現金の一部をアートという動産の資産に変えて日々の生活を楽しもうという感覚が大切である。手元に置いて、一人で眺めて、人に見せて楽しむのです。
自分の好きなアートを収集してある程度の期間楽しみ、作品の値段が上がった頃に売却して、その売買益で次の若手のアートを購入して新たな楽しみを得るという「わらしべ長者」的な発想が世界では浸透している。
【社会的ステータスの獲得と企業の社会貢献】
アメリカでは、ビジネスで成功し巨万の富を手にした富裕層は、いくらお金を持っているかよりも、その金額に見合う社会的地位をどこに築くかが重要視されます。良いアート・コレクションは自身の文化的教養を示すことになり、わかりやすい社会へのプレゼンテーションとなります。
また個人美術館を設立してアート・コレクションを一般に公開することや、公共の美術館に資金やコレクションを寄付する行為は、企業の利益を社会に還元し自国の芸術文化を支援するという、社会貢献の1つとして社会に深く根付いています。さらにそれにより自身の名前が後世まで寄贈者、設立者として語り継がれ残っていくという最高の社会的ステータスをも得ることができるのです。
おまけに海外では、寄付行為や財団設立には優遇税制が整備さているため、企業は税金対策にも繋がるアート・コレクションにはかなり積極的です。
【市場の将来性と投資としてのアート】
アートを所有する主要な目的に「投資」がある。アートは、経済成長期には投資資産となるし、経済不況時には金や宝石のようなインフレヘッジ(逃避資産)となる。
資本主義というものは、お金を出資した人がそれ以上のリターンをお金で得ることを目的としているので、アートがこの渦に巻き込まれれば、今後もアートの価値はバブルがはじけて一時的な後退があったとしても、全体としては価値の拡大に向けて走っていくことになるだろう。実際、リーマンショックの一時的な価値下落もほんの数年でカバーし、当時の水準を大きく上回る相場で今現在も推移している。
【魅力的なライフスタイルになる】
現代アートをコレクションするということは、作品を買って手元で楽しむということだけではない。自分の好みのアーティストの作品を美術館に観に行ったり、ギャラリーのレセプションに招待されたり、またアートフェアを見に行って馴染みのギャラリーのブースを訪れる。アートのためにプライベートの時間を使い、アートを楽しみ、アート好きのコミュニティに参加する。それが魅力的なライフスタイルになるのだ。
世界のアート・コレクターは、世界中で開催されるアートフェアなどのイベントに参加することで、アートをライフスタイルに取り入れて楽しんでいる。そのイベントの中でも、アート関係者が必ず勢ぞろいするのが、隔年6月に開催されるヴェネチア・ビエンナーレと毎年スイスのバーゼル、アメリカのマイアミ、香港で開催されるアート・バーゼルである。
アートを自分のライフルタイルに取り込むことで、自分が所有するアーティストと同じ時代を生き、そのアーティストの成長を同じ時間軸で楽しむことができる。また美術史に名を残す可能性のあるアーティストと直接交流する機会もある。さらに、美術史に刻まれる重大事象に立ち会う可能性もある。
現代アートを所有する、趣味にするということは、普段の社会生活で失う自由を取り戻す行為であり、自身が他人との差別化をはかる重要なトピックだとする人も多い。
【ビジネスでのメリット】
今、残念ながら日本のビジネスは世界の主流から外れている。現在の日本企業の苦境の大きな要因は、付加価値付与型のビジネスモデルがうまくいかなくなったことにある。
太平洋戦争後の焦土から立ち直り、産業を復興させるにあたって、私たちの先人が見本にしたのは欧米だった。実際に目に見えるお手本に近づき追い越すために、欧米の戦略(ビジョン)を模倣し、勝ち抜くために必要な「スピード」と「コスト戦略」で日本は今まで世界での競争優位を勝ち得てきたのです。
そのために、学校では未来の労働者を育てるために、生徒をひとまとめにして効率的で画一的な教育が行われ、教室にいる生徒全員が同じ制服をまとい、同じ教科を同じ方法で教えられ、学力は相対評価された。与えられた問題(データ)を見て、分析し、判断し、直線的に正しい1つの「解」にたどり着くためのスキルと知識を身につける人材教育が行われ、熱心さ、勤勉さ、秩序、忠実さが重視された。
しかし、これからの時代は、「どうやってつくるか」ではなく「何をつくるか」を考えなければならない。
世界をどのように変えたいのか?日本をどのような国にしたいのか?世の中のどんな問題を解決したいのか?こういった「問い」に対して、創造的な「ビジョン(これから向かう場所=Where)」をもって、常識を覆すような破壊的イノベーションが求められている。日本人が苦手とするところである。
グーグルのCEOを長く務めたエリック・シュミットは、グーグルの経営について、「どんな経営手法が役に立つのかよくわからない。わかっているのは、これまでの経営セオリーはこの世界では役に立たないということだけだ」と述べている。
このような状況の中、シリコンバレーなどで新たなビジネスを生み出して成功を遂げてきた人々の多くがアートの素養を持ち合わせていたことから、アートとビジネスの関係が指摘されるようになった。現代アートの鑑賞は、創造的なビジネスパーソンにとって次のようなメリットがあるようだ。
①現代アート鑑賞は、自らの頭で主体的に考えるトレーニングになる
優れたアーティストの作品は、いつでも何かを問いかけてくる。その「問い」に対し鑑賞者が想像力を働かせ、理解しようとす
る。受動的に感性で「感じる」だけではなく、能動的に「考える」とうい姿勢が、現代アートの鑑賞の基本です。双方向のやり取
りによって作品が完結するのが現代アートです。したがってこの「アート思考」が、「わからないもの」に対して、自分なりに
粘り強く考え続けるトレーニングとなる。
②現代アート鑑賞は、頭の中で凝り固まった常識をいったん壊すことができる
人間は、自分が正しいと思っている同じ思考方法で同じ行動を繰り返し、どんどん思考が固まってしまう傾向を持っている。こ
のパターン認識は、毎日のエネルギーを省力化して効率的に過ごすには大変大きな武器だが、その一方で「変化を捉える、変化を
起こす」には大変重い足かせになってしまう。
この繰り返しをやめるには、あなたが頭の中で「当たり前」と思っている凝り固まった常識を、一度あえて壊してみて、意味を
問い直すことが必要です。私たちの判断を鈍らせている要因の多くは、先入観と固定概念だ。現代アート鑑賞を通じて、これまで
とは違う見方で社会状況や人間の内面について考えることができ、同時に今までとは違う世界のありようを想像できるようになっ
たり、常識を疑い普段の見方とは異なる見方をしたりと認識の幅を広げるトレーニングとなる。
【企業内でのメリット】
ダイムラーやドイツ銀行など、企業の社会的責任(CSR)の一環で自国地元のアートを支援する企業は多い。アートを単なる投資先ではなく、企業イメージをよくし、新規顧客を取り込む目的で利用している。
またマイクロソフトは企業コレクションを持ち、社内に絵画を展示することが生産力向上につながると公表している。
さらに、社内の部門間コミュニケーション不足の問題を解決するために企業内に現代アートを置き、従業員たちの共通の話題にすることで、コミュニケーションの潤滑油として利用するのである。